2019年06月12日

走る言葉 6月

 初夏は緑の風  山西哲郎
 田舎に住む走者にとって、最も季節の変化を感じるのは春から初夏。
冬は裸の大地が広がり、そのうえを冷たい風が、落ち葉と踊りながら走り抜ける。やがて、小さな緑の生命が土の中にも裸木にも顔を出す。草花が美しく化粧して色豊かになってくると、路上の走者の冷え冷えしたからだと心とが暖かくなってくる。
こんな時こそ、「走り始めるならば、春ですよ」と、僕は歩いている人に、お節介者になって語りかけてしまうのだ。
そのうち、裸の大地の土は掘り返し耕されると、一面に小川から水が張られて、まるで池のような水田となり、そして、苗が植えられ田植えが始まる。
その田のあぜ道を走りながら「一列に並んで植えていた頃が懐かしいでね」と、近所の農家のおじさんに語りかければ「今は一人で機械を使ってやるからすぐに終わってしまうのだよ」と、一言。
水田の上を風が吹き、まだ幼い苗が揺れる。あっけなく田が変わってしまう風景に淋しさを感じていた僕はその風に戯れる苗で心が癒され、一方、肌は風に触れ心地よさを知り、走る体になっていく。前方を望む目には、遠く北の山並のまぶしく輝く白き雪と黒き岩肌が新たな姿を教えてくれる。
初夏の僕たちは、冷たい日々には風を避け、背中を丸く身体を固くし走っていたのに、光と暖かさの訪れで身も心も解放して、いかなる地形でも自由にトレイルの道を選び、走るスピードもフオームも変えながら自由にあふれた走者になっていけるのだ。
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posted by miko at 16:18| Comment(0) | 山西先生のエッセイ
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